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看取りのあとに [看取り]

 
 先日、胃癌のためご自宅で亡くなられた男性のご遺族が、本日、私たちの事務所を訪ねて来られました。
 奥様と長女様より丁寧なご挨拶をいただき、それだけでも十分でしたのに、奥様は私たちにこんな言葉を残してくださいました。「8ヶ月の間、幸せでした。ありがとうございました。主人は、わたしたちにたくさんの思い出を残してくれました」と・・・

 8ヶ月と言うのは、退院されて在宅で過ごされた日々の事です。 “あの時、私たちが退院をお勧めしたのは間違いではなかった” そう確信しました。あの時、入院か、退院かと迷われていたご本人様と奥様。そして、ずいぶん迷われた末に退院の決断をされ、ご自宅へと戻られたのでした。

 8ヶ月の間、最期までご主人を自宅で懸命に介護され、そして看送られた奥様。今日、奥様が私たちに見せてくださった笑顔は、何かをやり遂げたものだけが得ることのできる、屈託のない晴々とした美しいものでした。

 この先奥様は、ご主人との思い出を胸に、自分の人生を生きていかれることでしょう。今は大きな悲しみも、やがて時と共に懐かしい思い出へと代わっていくことでしょう。それと同時に私たちとの関わりも、いずれは奥様にとって、懐かしい思い出のひとつになっていくのです・・・
 そう考えると、少しだけ寂しい気もします。8ヶ月間、私たちと奥様とは“ご主人の生き方を支える”という、同じ目的で、共に活動してきた在宅緩和ケアチームの仲間でもあったのですから・・・

 でも、もう奥様は、ご自分の新しい人生に向かって、歩き出そうとされている・・・
 私たちも、寂しいけれど・・・大好きな大好きなご利用者様を失って、とても寂しいけれど・・・歩き始めようと思います。次の使命に向かって。私たちの使命は、地域福祉の向上の一端を担うことなのですから。
 私たちを待っていてくださる方のために、ご利用者様に笑顔でいていただく時間を増やすために、私たちもまた、歩き始めようと思います。


在宅緩和ケアという選択 [看取り]

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 先日、70歳代の男性が、自宅でご家族に見守られながら、安らかに息を引き取られました。ご本人・ご家族ともに希望された、“在宅での看取り”でした。
 
 去年の11月、「余命2ヵ月」と医師から宣告されたこの方は肺癌の末期で、癌細胞はすでに脳と胃に転移していました。
 私たちが面会にお伺いしたときには、すでに一人では食べる事も話すこともままならぬご様子で、誰もが「余命2ヵ月」という言葉を疑いませんでした。私たち緩和ケアチームはご自宅で最期を迎えていただくべく、退院の準備を進めていきました。
 しかしそんな中、在宅医の先生がある時レントゲン写真を見て、こう言われたのです。「立てないのは癌のせいじゃない。心が折れたからだ」と・・・

 「心が折れた?じゃあ、自宅に帰って心が元気を取り戻せば、立てるようになるの?」・・・私たちは、半信半疑でした。ベッドの上で、まったく動く事ができずにいるこの方が、まさか立てるようになるとは、どうしてもその時には思えなかったのです。

 自宅に帰って、懸命のリハビリが始まりました。幸い意識がはっきりとして来られ、そのうちに食欲が出て、無表情だった顔に笑顔が戻っていきました。
 末期癌で寝たきりの方に行うリハビリです。初めは人に支えてもらってベッド横に座るところからでした。座れるようになったら、次は立ち上がる練習。立ち上がれるようになったら、次は歩行器で1歩だけ歩く訓練・・・
そうして、この方はなんと歩行器を使って10メートルも歩く事ができるようになられたのです。

 あの時の「立てないのは癌のせいじゃない。心が折れたからだ」と言われた先生の言葉は、嘘ではありませんでした。歩いた時に私たちに見せてくれた、あの嬉しそうな表情!そして、そんな様子を見て、手を叩いて喜び合った緩和ケアチームのメンバーたち!
 “自宅”という場所には、なんだか、人を元気にする魔法のようなものが秘められているような気がします。
 この方も退院を決断されなかったら、きっと余命2ヶ月で亡くなられていたでしょう。退院を決断されたからこそ、それから9ヶ月のあいだ、自宅でご家族と共に温かい時間を過ごす事ができたのだと思います。

 末期癌の治療は、病院でしかできません。しかし、緩和ケアは、在宅でも受ける事が可能です。“せめて人生の最後は、自分の好きな場所で、自分の好きな人と一緒過ごしたい”そんな、ごくあたり前の願い・・・叶えたいですよね。

 退院という選択肢もある事を、もっと世の中に広めていきたい・・・それが、私たちの願いです。


人は、死ぬまで生き抜くのです [看取り]

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私ども銀の庵グループでは介護保険・医療保険などをご利用いただき、年間約60人ほどの方の、在宅での看取りをご支援させていただいております。

多くの方は末期癌ですが、中には重度の肺炎や神経難病の方々もいらっしゃいます。

現在わが国では、終末を病院などの医療機関で迎えられる方が80%以上にのぼります。でも、「最期は自宅で・・・」と希望される方も、同じく80%くらいいらっしゃるのです。つまり、最期は自宅を望んでも、現実にはその望みは叶わない・・・そんな現状があるのです。

数年前になりますが、こんな方がいらっしゃいました。
末期癌で余命数日と診断された70歳代の女性の方でした。「どうせ治らないなら最期は自宅で・・・」と希望され、私どもが入院先に面会にお伺いした翌日に、急きょご自宅に戻って来られることになったのです。
ご自宅に戻って来られた翌朝、その方は元気だった頃と同じようにキッチンに座り(車イスでしたが)、木漏れ陽の差し込む大きな窓から庭の木々を眺め、大好きなコーヒーを飲まれたのです。(実際には食事がほとんど摂れない状態でしたので、ほんの数口ではありましたが・・・)
そして、こう言われたのです。「またこんな時間が持てるなんて、思ってもみなかった・・・」と。

人の命は、それが終わりに近づくと、急にきらきらと輝きを増すことがあります。この方の場合が、まさにそうでした。この方は、その数日後に穏やかに息を引き取られましたが、人生最期のひと時を、住み慣れた我が家でご家族と共に、密度の高い時間を過ごされたのです。

今年もまたお盆になり、その方の事を想い出します。

人は最期には死ぬのではなく、人は死ぬまで生き抜くのです。

木漏れ陽の中に、にっこりと微笑まれたあの方の笑顔が、ふっ・・・と浮かんだような、そんな気がしました。


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